ブロッター

ブログとツイッターを混ぜて、さらに異論、反論、オブジェクションで固めたものです。で、ブロッターというわけです。毎日書く暇も能力もないので、不定期のコメントです。

2012/夏 comment
ブロッター1  読み終えてフーッと溜息をついた。久しぶりに充実した読後感がある評論だった。疑問でモヤモヤしていた戦後の出来事が、スッキリと証明されたような感じで、外交の第一線で動いていた人のリアリズムが感じられるものだった。
 戦後をすべて生きてきた私にとって、米国は強引で脳天気で荒っぽい国という印象しかないので好きになれず、もちろん行ったことは一度もない。ところが、占領後からかなり日本を背後から操作していたらしく、日本の政権交代にまで力が及んでいたとなると、「何というヒドい国なんだ!」と思わざるをえない。その意味では、この本で、さまざまな社会事象や外交の解説を読むと目から鱗がポロポロ落ちるところが多かった。
 それにしても日本で自主独立的な政権が生まれると、あらゆる手段を使って政権崩壊に持っていくという米国の凄さ・・・それで田中角栄も鳩山由紀夫もやられたとなるとビックリである。これでは自民党は米国の手先にならざるをえず、民主党も舵を切らざるを得ないわけだ。日本の戦後史は孫崎さんの裏話によれば、あらゆる分野における米国の圧力をどう扱い、どう反映させるかという技術で終始したように思える。3・11で原子炉が米国から買わされたということを知った私たち・・・知らないことは山ほどあり、教科書も副読本も一切そのことには触れない。恐るべし、米国・・・・。
ブロッター2  新聞小説(「県庁おもてなし課」)で人気が出た作家で、けっこう小気味の良い切れ味を読んだ後に感じたので、この作品も読んでみた。「図書館戦争」もけっこうおもしろかった。こういう視点で軽く書く小説家が少ないので新鮮に感じたのかもしれない。身近な話題、問題をネタに軽妙に世相を皮肉る技は秀逸だと思う。
 ネタバレにするつもりはないが、阪急今津線の宝塚駅から西宮北口駅までの間の各駅でさまざまな人間模様、エピソードを拾いながら、往復して終わりという構成・・・このエピソードがなかなかいい。通俗的と評されるかもしれないが、人の世の中は、この程度のレベルで動いているのだから、こういうところに目をやって世の中の在り方を示すのは手だと思う。
 いま日本中でモラル崩壊が始まっていて、その結果が悲惨な事件につながっていくわけだが、ここでは「崩壊」を小さな崩れのうちになんとかしようという作者の気持ちに共感が湧く。「崩壊」は小林駅で同級生をイジメる女の子のエピソードまで続く。しかし、そのイジめられた××ちゃんまでも助けていくすれ違いの乗客・・・これは、作者の温かいまなざしでもある。読後感は・・・「まだ日本人も捨てたものではない」かな。
ブロッター3  いつも客注で本を買いに来るK大文学部の大学教授が、この本を注文してきた。じつは私も注文してあった本で、『奇遇』・・いや奇遇ではないのだ。一致がなぜなのかというと、実は地方紙の書評にあった本だからである。教授も私も新聞の書評を読んで注文したというわけだ。
 幼少の帝国・成熟を拒否する日本人・・・つまり精神性を幼くすることで生きようとする日本人・・・なるほど興味深い視点だ、書評にもそのような感じで推奨されていた。ところが先に読んだ教授が私に言う。「なんだ!こりゃ!書評と全然違う内容じゃないか。」・・・アンチエイジングの話、整形美容やキャラクター玩具の話・・・高須クリニックの院長との対話やサブカル・オタクのような分析・・・・最後は、取って付けたような東日本大震災の話とエネルギー政策の自己見解・・・「おいおいそれはいいけれど自分の意見もないじゃん!」、それより何より新聞書評の推奨文にあるような内容が本の中にまったく見当たらない。書評した人! おまえ読んで書いたのか?
 書いた作家がバカなのか買った我々がバカなのか・・・調べると作者は芥川賞や谷崎潤一郎賞まで取っている人。賞の質も落ちたものだと思ったが、読みもしないで評価はできないので、受賞作を読んでみるか。いやいや書評する気はないので、買ってまで落胆を経験することもない。やめておこう。
   

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