ブッククラブニュース
令和2年
3月号(発達年齢ブッククラブ)

遠くから見ている人はいるもので

 1980年3月3日に開業したので、この2020年で40年目・・・なんだかあっと言う間の40年です。書店というのは利益率が低く、1980年当時でも新規に開業するのはみんなチェーン店のタコ足店舗でした。開業前に銀行に融資の相談に行ったら「専門店なんて3年で消えるのが一般的です。他の業種にしたほうがいいですよ。」と言われて、貸してもらえませんでした。さすが、経営や金融には長けた方々なので、先を見る目や社会の変化をよく見ていてのご意見で「なるほど、緻密な分析をするものだ」と感心しました。そこで信用金庫で借りることにしました。計画書を見て、「担保さえあればお貸しする」というので借りました。銀行とはちょっと違って緩い感じで、起業にはこのレベルの金融機関のほうがいいですね。銀行のように取り立てて、いろいろな注意はありませんでした。
 私はO型でイノシシ年。人の言うことは参考にしても言われる通りにはしません。さらに走り出すと右も左も見ないで突進するひじょうに危ないタイプです。そういう勢いのようなもので始めてしまったのが40年前。小さい店でした。いまでも小さいけど。まあ、この大変化の時代によく続けてこられたものです。
 いまでもそうなのですが、お客様の半分以上は県外の方々。ネット通販ではないし、広告宣伝をしているわけでもないのにねぇ。

次の敵はアベノミクス?

 みなさん、ご承知のように紹介者がいないとブッククラブの会員にはなれないのですから、最初のころは遠くも遠く、県外や海外で広めてくれた方も多かったのです。20年くらい前までは7割が県外、いまでも6割近くが県外です。はじめは大変でした。地域に絵本や読み聞かせに関心を示す人がいなかったのです。ですから、地域社会は捨てて、外側を攻めていったのです。
 わけのわからない配本体系(笑)で商売している山の中の小さな絵本屋を信頼してもらうにはできるかぎり真面目にやる、丁寧に対応するよりないのですが、そんなこんなでアッと言う間に40年が過ぎました。
 これからはアベノミクスの零細潰しの影響やデジタル流通などのしわ寄せで第二の困難期に入り、お客様世代も利便性第一のスマホ世代になっています。どうなることかは神のみぞ知るわけです。でも、O型イノシシは猪突猛進で、があったら転げ落ち、があったら突込んで流され、溺れるかもしれません。
 少しもシステムを変えない。デジタルの時代なのにアナログでやる。時代を追わずなんとか・・・・。
 でも、これからのお客様はどうでしょうか。待つことができず。アナログは避けていくのでしょうか。まだ人間性を信じたいですが、AIを信じる人も多くなってきました。
 ゆめやの仕事は、手間がかかる、時間を食う・・・人手はないので、すべて夫婦二人で悪戦苦闘。24時間一緒にいる仲の良さ(笑)ですけど、零細に変わりはない。非合理もはなはだしいのですが、そんなこんなで何とか40年。これは、これまで支えてくれたお客様、見守ってくれた遠方の方々のおかげです。ありがたいことです。

人間を使い捨てない・・・

 遠くと言えば、3月2日に写真のような大きな胡蝶蘭が届きました。台湾の花栗鼠(シマリス)絵本館の店主・林忠正さんからの贈り物です。まったくありがたいことです。シマリス絵本館は2010年開業ですが、林さんはもともと出版社をされていた方で日本語は私より上手です。なにより勉強熱心な方で開業時にもゆめやを訪れていろいろな考えを交わしたこともあり、その後も機会があればお会いして交流を深めました。日本の子ども、台湾の子ども、また世の中の動きなどを話し合っています。もはや長いおつきあいで、さまざまな御助力をいただきました。
 あまり欲張らず、真面目に丁寧に付き合えば、まだまだ世の中は捨てたものではありません。大量消費は人間の使い捨てを招きますが、やはりゆっくり、のんびり付き合っていけばやがてお金では買うことのできない成果が得ると思います。人生と同じ。
 みなさんは学校の仲間や先生とつながりを持ちますが、これって意外にその場の人間関係で小学校・中学校のクラスメートでどのくらいの数が現在の友人の中にいるでしょう。先生も同じでたいていは「そんな先生いたっけな?」です。人間関係はどこかに嘘やごまかしがあります。だから学校の親友が人生の親友になるとは思えません。先生がいつまでも自分の応援をしてくれているわけもありません。
 嘘やごまかし、騙しや隠蔽をすると後がひどくなります。インバウンドで欲を掻いたら恐ろしいウイルスまでインバウンドということになりますからね。

長い長い会員のはなし

 開店四十年目に入りました。現在の会員、それから過去のたくさんの会員の方に心からお礼申し上げます。また、ゆめやの仕事にご助力をいただいている多くの方々にも感謝いたします。開業は1980年、奇しくも任天堂のファミコンが生まれた年でもあります。
 当時、スマホはもちろんコンピュータもなく、まだまだ、おだやかでゆっくりとした時代でした。それから四十年・・・ゆめやがやっていることはまったく変わりませんが、周囲は激変。アニメ、ゲーム、キャッシュレス、各種アプリ、これはもはや良し悪しは別として「日本のあり方」となりました。でも、やはりサブはサブ、それによって世の中や私たちに軋みが生じてきています。
 親は忙しく、子どもの世話をする時間も子どものことを考える時間もなくなっています。この40年、警告は続けてきましたが、知っているのは以前の会員の方ばかりで、いまやサブカルで育ち、本をロクに読んだことのない人も多いのです。

本を通して親と子が・・・

 ただ、私は、深刻には考えません。いつの時代でも真っ当に子育てしている人はそうは多くなく、なんだかんだ外部依存で育てている、それがこの国の子育てでした。読み聞かせをする親も意外に少なかったのです。だから、本を与えて育てようという皆さんには、まず問題はなく、ガタガタ言う必要もないのです。子どもと言葉での接点を持ちたい親は、いつの時代にもいるものなのです。そういう人たちは肉声で接したいのですから、ギャルママのようにスマホでダウンロードした絵本を自動的に読みあげる方法など好まないでしょう。ダメ親は、もともと本など嫌いな人たちです。物を考えない親から考える子が出るのが少ないように本を読まない親から読む子どもはほとんど出ない。これは多くの方が自分のことを振り返って考えてみれば分ることでしょうね。受験勉強やスポーツで青春時代に読書をしなかった人も多い。昔から読書人口が多い国ではないのです。識字率だけは高いので出版は盛んでしたが・・・。

ブッククラブ滞在期間の長さ

 さて、四十年。いぬいとみこさんの児童文学の名作「長い長いペンギンのはなし」というのがありますが、ゆめやには「長い長い会員のはなし」の例がたくさんあります。
 四十年・・・やってくるとおもしろい現象が起きるのです。
 最近はかつて読み聞かせを受けた会員が新規入会の7割くらいになっています。結婚して子どもができて、また読み聞かせを始める。読み聞かされた人は親になれば当然、読み聞かせが「子育ての当たり前」ですからね
 例えば、藤巻明日香さんという会員がいます。30年以上も前のことですから配達で配本を届け、明日香さんのお母さんとよく世間話をしたものです。やがて、かわいらしく挨拶していた明日香さんは結婚して姓が変わり、お子さんができてまた読み聞かせです。30数年がたってしまっているのですが、私にも明日香さんにも時間の流れの速さはわからず、ほとんど以前のままで話をしています。そして、二度目の読み聞かせをした彼女のお子さんがもう6年生ですから月日の経つのは早いものです。それでも、ゆめやは、何も変わらず、同じように配達に伺っています。
 先日は大おばあちゃんと玄関の前でお会いしました。矍鑠(かくしゃく)としたもので私を覚えていました。そんなつながりですから、このご家族も3代、4代を通しておつきあいできている会員です。
 長い、と言えば、李さんですかね。この方は県外なので2度しかお会いしたことがないのですが、一番上のお嬢さんは進学課程を出て、もう二十歳代半ば・・・。
 ところが離れて息子さんがいて御長男は中学生、そして御次男はまだ小学生で、そりゃあ「長い長い会員のはなし」となります。お子さん3人の配本で足掛け25年以上のおつきあい・・・これは一会員としては最長不倒のゆめやの会員です。きっと李さんの家の部屋は図書館以上になっているのではないかと思っています。会員、それぞれ違いはあれ、四十年の月日は、長い長いおつきあいを生んでいます。これも貴重な「一期一会」の交流ですね。「ありがたい」の一言です。

しかし、すぐに本の時代は終わる

 とはいえ、三十数年前は比較的同質だった日本社会が、いまや大変な格差を引き起こしているのは皆さんもご承知のことでしょう。
 この中で本はあきらかに時代遅れの産物となってきています。政治家を見ていればわかる話ですが、反知性そのものですから文科政策も本を読ませることで頭をよくする施策は取りません。
 子どもたちは考えたり想像したりすることを奪われ、詰め込まれているうちに成績の優劣でしか考えない人間になっていきます。必要な意識は世の中に浮かんでは消える流行りものを追うのではなく、もっと高度な思考とまともな生活なのですが、これができません。多くの家庭は生活に追われて本や読み聞かせどころではないでしょう。破綻まで行かないとわからないでは困るのですが、車のローンや家のローンに追い掛け回され、学力競争で焦らされて子どもを塾やお稽古ごとに追いやっています。このためファミレスでは5000円の食事を子どもにさせて支払いをする親が書店では2000円の本も子どもに買ってやらないのです。ますます格差は広がるのですが、この流れが世の中から書店を減らせていきます。若者はスマホに夢中でまともで基本的な本は読まない、いや読めなくなっているのです。
 高いところから見下ろすように偉そうなことを言いますが、これが事実と現実。時代と流行には流されないことですが、それがむずかしいのです。
 どんなひどい時代になっても人の道を曲げないで行けば、家族や人間関係が崩れることはありません。これは保証します。(新聞一部閲覧)



(2020年3月号ニュース・新聞本文一部閲覧)

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