ブロッター

ブログとツイッターを混ぜて、さらに異論、反論、オブジェクションで固めたものです。で、ブロッターというわけです。毎日書く暇も能力もないので、不定期のコメントです。

2024/夏 comment
ブロッター1  先を読める人というのは魅力的だが、悪い状態をなんとかしようと考える人はもっと魅力的である。この本の日本語版は2011年9月に刊行されたというが、読んだのは最近だった。著者・ナオミクラインはシカゴ学派 (経済学) のミルトン・フリードマンを批判している。この市場原理主義を煽る学者を指摘して、「そういう主張はショック・ドクトリン」だと呼び、現代の最も危険な思想とみなしている。そして、近年の悪名高い人権侵害を、反民主主義的な体制による残虐行為と見るばかりでなく、民衆を震え上がらせて抵抗力を奪うために綿密に計画され、急進的な利益至上主義を否定する。
 資本主義は最初、商品の売買による利益獲得だったが、市場原理主義は無理やり売りつけるものだからである。ところが、その市場原理主義も限界に来ると、災害とか戦争のようなものにまで便乗して物を作る、売るというところまで来ている。病害まで薬で儲け、戦争では武器の輸出にまでつながる。
 これが限界に達すれば自ら災害や戦争をつくりだして、それに便乗していく商法にもなるというわけだ。たしかに、世界各地で、もうそういう状態が生まれている。わが国も規制されていた武器輸出をOKし、戦争をも肯定し始めた。まさにショック・ドクトリン状態に入ったといえるかもしれない。
ブロッター2  日本という国が抱えている危機の原因をスパッと切り口鋭く語っている本だった。内田樹さんの「この国とこの国の人々への批判」・・・おそらくまともに、この人の論を受け取る人は少ないので、彼は「大人」が消えていると言う。でも読むにつけ、それ以上に日本の危機だと思わざるを得ない。
 彼が挙げる危機は多いが、じつはそれを回避する術を日本人は持たないということが一番の危機だと思える。国をだめにしかねない米国の顔色伺いの日本政府をなんとかできるか! 米国支配から脱け出せるか! 以前から内田さんが危惧してきた食糧問題もとても解決できそうもないのにテレビや雑誌の食い物提示の消費扇動。なにより生活上でモラルが喪失しているわけで、内田さんは「この国には『大人』がいない!」と哀しむ。そして、どんどん危険なものになってきている食生活、里山が荒れて動物たちも変化している中で食料は大丈夫ではなかろう。
 読んでいくうちに危機感より絶望感が強くなる。夢と希望でやってきた戦後日本も腐ってくるとどうにもならなくなる感が強くなるということだ。
 自然と文明社会の「境界線」を守れるか。日本人個人の人生観についてもまた「人生は問題解決のためにあるわけではない」と言う。新しい哲学と人生観が日本人には絶対必要な時期にきたようだ。
ブロッター3  小手鞠るいさんの読書履歴から独自の読み方と感想を軸に書かれたもの。最近の若者は太宰も藤村も古典であり、名も知らなければ、読んだこともないというのが一般的な傾向だ。
 だいたい本を読むということ自体失われているので、感想を述べても読み方を書いても関心が高まらないのがふつうの状態である。でも小手鞠るいさんは、自分の生き方に大きく影響のあった作家の作品を紹介しつつ、「放課後の読書クラブ」のお仕事という形で読みやすく並べてくれる。
 たとえば藤村の『初恋』は先に現代語解釈をして、初恋にまつわる話をしたのちに「まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに・・・・」と原文をつなぐ。これは読みやすい。しかも、これでもかこれでもかと彼女は過去に読んで感動した本について語る。フランダースの犬の不条理な悲劇から自分が『テルアビブの犬』を書いた話、ゆめやも読んだことがない本(井上靖『補陀落航海記』)まで出てくる。本が読めない子には苦痛の一冊になるだろうが、読める子には、これから読みたくなる誘いやヒントがたくさんある。一読してもらいたい。
   

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