ブッククラブニュース
平成20年11月追加分

読み聞かせの周辺F 3歳

◆想像力の突出◆


 3歳は空想力が高まる時期です。すでに2歳ごろから想像する力の芽生えは感じられますが、3歳では世界自体が空想の対象になってきます。自我が未分離なことから起きる現象ですが、これによって物語の世界に入ることが出来るわけです。想像というのはAはBでもありCでもありXでもYでもあるという膨大な「把握」です。大人の想像など貧弱だと思えるほど、子どものこの時期の空想力は大きなものです。何もかもがバカバカしくなく、自分の世界へ入れることができるというのはすごいではありませんか。しかも何にでもなれるわけです。この力は、いずれ大きくなったときにひじょうに役に立つ力です。

◆早期教育の問題点◆


 しかし、小さいうちから「これは、これ」「それは、それ」という教え方で育つと、想像力を十分に発揮できなくなります。早期教育の多くは、あるものを一つの言葉に置き換えることだけを進めます。幼児期に、こういう覚え方を学んでしまうと、「あること」から「ほかのこと」を想像する力が出なくなります。テストなどはクリアーする力はできますが、新しい発想や独自の思考はできなくなる可能性もあります。この現象は説明するまでもなく、早期教育や受験教育が進んだこの30年間の結果に現われていますよね。マニュアルがないと動けない、・・・そのうちマニュアルがあっても動けない人々が出てくるという結果です。

◆自由に動く・自分で動く◆


 3歳の配本は、絵本が佳境に入る時期です。さまざまな世界でさまざまなことが繰り広げられます。この中へ自分を溶け込ませる力が、想像力です。動物の世界でも野菜の世界でもお化けの世界でも入り込んでいって、縦横無尽の活躍ができます。2歳のときに「もりのなか」や「ちいさなたまねぎさん」で培われた想像が、その空想の原動力になっているわけです。これらの本の世界に入って行った子のほとんどが3歳代の物語絵本に大きな関心と興味を持つのは当然の結果です。いつも注意しているように2歳代で図鑑やキャラクターものに惹かれた子は、なかなか物語絵本を楽しめない傾向にあります。これまた当然のことですね。図鑑やキャラクターは「これはこれ」「それはそれ」の世界だからです。これは「トラクター」、それは「のぞみ型新幹線」、それは「トーマス」、これは「プーさん」という数集めの世界です。ここでは、思考も関心も自由に動けなくなります。

◆名作・ロングセラーがめじろ押し◆


 3歳の物語絵本は、「ぐりとぐら」をはじめとして、名作・ロングセラー揃いです。3歳は、そうした物語が入る時期ですから、読み聞かせは、ごくふつうの読みで行うようにしてください。声色を変えたり、パフォーマンスを加えたり、おもしろおかしく読むことはじょじょに抑えてほしいのです。なぜなら、絵本の先には一人で読んでいく読書・・・つまり物語の本があります。読書はドラマを観るように感情的な刺激で感動するものではありません。文を淡々と読みながら感動するものです。ですから、その準備として、あまり大げさな読み方はしないでほしいのです。いずれ子どもが自分で本を読むことが目的です。

◆絵本の絵の役割◆


 絵本の絵は想像力を引き出すきっかけ。言葉から想像できるようになれば不要のものです。つまり、幼児は言葉からの想像が難しいので補助として絵が必要なのです。成長とともにじょじょに絵は減っていくことが自然です。言葉から想像する力を失ったサブカルチャーの時代ですから反論のほうが大きいですが、言葉から想像できないということは、想像力の劣化です。漫画・写真と文章の認識では大脳の認識位置が全然ちがいます。漫画や写真は即物的な反応を引き起こします(分かりやすいといえばいえます)が、文はもっとゆるやかに情緒的な反応が起きます。これは記憶とも大きく連結します。例えば、伝記漫画というものがありますが、漫画で読むと細かなことを記憶できません。ところが文章で書かれた伝記はけっこう記憶に残るのです。解りやすさを前提に漫画化が進んでいますが、漫画では「ああ、それ知ってる」程度のものになってしまうでしょう。・・・まあ、そんな議論はどっちでもいいです。3歳の絵本は楽しい。だから、親も読み聞かせながらじゅうぶんに楽しんでください。

親や子がいる場所G「混沌(こんとん)」

◆目標が否定される時代◆


この間、おかしなことが報道されていた。横浜の高校の校長が教委の指摘で馘(くび)になったというのである。何でクビになったかというと入試で服装や態度の悪い生徒を落としたからだ。「これのどこがいけないのだろう」と思って読んでいくと、落とされた生徒の試験成績が合格点だったからだというのである。私の考えでは面接のときや試験中の態度が悪く、服装が乱れていれば、それだけで入試には致命的だと思う。高校は義務教育ではないのだからなおさらだ。ところが教委の基準は合格点にあって、生徒の社会的資質にはないのである。これは驚きだった。いったい教育は何を目指しているのだろう。ここでは教育の目標が否定されている。この世はテスト成績がよければOKなのだ。人間など磨かなくていいわけである。これは、モンスターファミリーや下層社会の話ではない。高校教育の世界でのことである。子どもはそこそこの点数を取れば成功!ということか!

◆何でもありの状態◆


テレビでパチンコの新機種や競艇、競馬やロトシックスのCMが流れる。これは一時代前までは、「射幸心(一攫千金を狙う)を煽るもの」とされて公的な宣伝はできなかったものだ。お笑い番組の最中に性病の治療薬のCM、子どもが見る時間帯であろうがなかろうが関係ない。おちゃらけた感じがするが、真剣に現実を考えているのだろうか。メディアは、小室哲哉の詐欺事件をこぞって攻撃しているが、十年前、彼を持ち上げていたのもメディアである。何かがおかしい。
 芸能人などというものの本質は昔から「河原乞食」の生き方であって、目立てばそれでいいわけだ。そういうことを少しも書かないで、いいときは持ち上げ、悪くなると攻撃する。一攫千金を狙ったホリエモンの取り扱いだって同じだった。世界同時株安などよりももっと怖い「環境破滅」がこの先待っている、と予測する人も多いのに、この国のメディアはさほどの危機感はない。地球始まって以来はじめてという大変動が来ているにもかかわらず、テレビのコメンテーターも解説者も他人事のようにヘラヘラ笑っている。昔、ある映画で「残酷の中にいる者は、それを残酷と感じない」がテーマだったが、いま、日本では「異常の中にいる者は、それを異常と感じない」状態が起きている。親は、これを受け入れて何でもありで子どもを育てるのだろうか。

◆メディアがリードする混沌◆


 以前(かなり前だ)、前述の夢新聞上で「アメリカン・グローバリズム」の紙上討論の話だが、そのときも実は「アメリカはもういいよ」という気分は主流ではなかった。当然「アメリカが日本を悪くしている」と思っている人は少なかった。たった数年前のことである。ツインタワービルのテロ事件で、「される側にも問題がある」と言ったが、そのときの反響も「無実の人があのビルのテロで何千人も死んだ」という感じのほうが強くてアメリカが仕掛けた戦争で何万人も死んでいることは問題視されなかった。その後、戦後の「自由」や「教育」が精神病的な日本人を生んでしまったことを述べてきたが、まだまだディズニーランド愛好者は多く、「我々がどういう風に生活していくのが妥当か」は考えられていない。東京の秋葉原や渋谷の「ショップ(前にアクセントを置いて発音)」では、もう頭が狂っているとしか思えないファッションの若者が動き回り、何もかもが否定もされずに大手を振って存在できる。じつにグローバル的な光景である。
 しかし、いま、金融不安が進んで、これまで当然とみなされてきた欧米的な価値観も疑われはじめてきた。民主主義も、だ。・・・・金融危機なのに巨額の資金が消費される米大統領選、大統領の責任は一切問われないで、任期切れになる不思議。テレビの放送枠を全部買い取るという強引な宣伝工作の怖さ、日本でも言葉など意味を持たないことを示している首相たちの相次ぐ辞任、選挙で信を問うのが筋の解散も総裁選で誤魔化される、これまた不思議・・・これが民主主義ならば民主主義など不要である。しかし、まだ「市場と競争原理が人をダメにする」という声よりも、勝ち残りたい人が言う「デタラメ」な声のほうが強いのはなぜだろう。口を開けば「ビジネスチャンス」という言葉ばかり唱える企業人はまだ多い。北極の氷がかつてないほど溶けているというのに・・・・。警告より一儲けというところである。アメリカ経済が落ち込んでいるから、アメリカ企業を買おうなどという日本の金融機関や企業も現れた。そして、それらが無意味に報道されている。メディアが分析や批判を止めて、企業や市場に降参しまったのだ。「売れないものは悪いもの」「売れれば良いもの」という世の中の狂いと市場の暴力に戦わないうちから負けたわけである。親もこれに倣って、あっちの水が甘ければあっちにいくのだろうか?

◆そんなこんなの中で「正気」を持つ◆


 「親や子がいる場所@」から、現代の日本で起きている状態を書いてみたが、そんなこんなの中で私たち親は子どもとどういうふうに生きていけばいいか。あるいは子育てをしていけばいいか・・・・「正気」をもって生きて行くのがいいのだが、回りがどんどん狂気になっている。もはや子どもに与えるものが及ぼす結果も「自己責任」だ。騙したほうも悪いが、騙されたほうも悪い時代・・・何でもありの混沌・・・ブッククラブの多くの会員の方々はまだ物事の判断には正気だと思いますが、どうなるのでしょう。



(ブッククラブニュース一部掲載11月追加分)
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