ブロッター

ブログとツイッターを混ぜて、さらに異論、反論、オブジェクションで固めたものです。で、ブロッターというわけです。毎日書く暇も能力もないので、不定期のコメントです。

2022/春 comment
ブロッター1  千代田区一番一号・・・この所番地は「皇居」である。冒頭、いきなりファミリーネームを持たない老人が銀座をぶらついた後、その妻との会話が始まる。誰とは言わないがファミリーネームがない一族はそういるものではない。
 映画監督・森達也の痛快なSF?小説だが、あながち現実離れした物語とは言えない日本が抱えている問題の根幹がえぐられているように思った。それは象徴天皇制の問題であり、国民が日本を国としてどうとらえるかという深いテーマが隠されているように感じる。皇居地下あるいは東京の地下一帯に張り巡らされている迷路(ラビリンス)は現実に存在するのか否か・・・・から始まる近代日本の闇の部分・・・・ただでさえ天皇関連を描くことはとかくタブー視されているのに、この小説は、まるでそんな一線を画す意識など存在しないかのように天皇家が登場し、得体のしれぬカタシロなるものが、この不分明の闇を騙る狂言回しになっている。
 それは東京の地下のラビリンスが存在?するように日本という国の構造の下を走っているラビリンスでもある。著者は、それを問いかけ、日本や日本人がどう向き合うべきかを「荒唐無稽に見える現実」ではなく、現実にある闇として描こうとしているような気がする。最近、天皇制に触れることをタブー視している日本人の軟弱な知識層にひとつの大きな槌をふるった感じの小説といえるだろう。
ブロッター2  さて、東京地下のラビリンスといえば、ある不思議な地図のことが思い出される。それは文豪かつ陸軍軍医総監であった森鴎外の「帝都地図」だ。この私家版・帝都地図は当時、首都の地図が陸軍省によって機密事項であったにもかかわらず個人の版元から刊行されているのである。しかも、地図は不思議な記号や無いのに有る、また、あるのにないものが記載されているのである。あの精密極まりない鴎外が、そんな杜撰なものをつくるはずもないのだが、これはなにか言うに言えない、しかし知ったからには言っておきたいものがあったとしか思えない。急に「天皇家・万世一系」になった明治で諡(おくりな)の研究をして、よく読めば皇統断絶が匂ってくるような本を書き上げた人だ。何かある。
 これを読んで初めて知ったが、鴎外がドイツ留学をしたのは、伝染病の研究のためでドイツ女性との恋のためではないが(笑)、ミュンヘンで下水道による感染拡大防止の研究をしていたようだ。ベルリンやパリは下水道が完備していないのでコレラなどが蔓延したが、ミュンヘンは抑えていた。下水道完備だったからである。それを研究してきた鴎外は日本でも整備を説いて予算を組むように二度も進言し、予算は組まれたようだが、立ち消え状態になっている。なぜか。すでに江戸時代に東京の地下には下水道ができていたからという推測も成り立つ。政府にとっては都合の悪い事実を帝都地図で示そうとしたのかも。
ブロッター3  映画・「峠・最後のサムライ」を観て、本棚の奥に隠れていた司馬遼太郎の「峠」を読み返そうと思った。読んだのはもう何十年も前のことだ。ご承知のように司馬遼太郎は明治維新、明治時代を賛美する小説家である。私は今に至る政府・政治の無責任は明治維新から始まると思っているが、司馬は「坂の上の雲」に見られるような明治維新礼賛派である。
 しかし、すべてがそうだというわけではなく、例えば「殉死」では乃木希典の無能を描いているし、「峠」では東軍である長岡藩の河井継之助の生きざまにスポットを当てている。河井は新潟を独立国にしようと考えていたフシもある人だ。なにより粘り強く交渉で戦争を避けようとするのだが、有名な小千谷会談の決裂で戦わざるを得なくなった。結果、敗軍の将として戦死するわけだが、山縣有朋に冷や汗をかかせた作戦で西軍を翻弄したのも有名な話である。
 長岡は連合艦隊司令長官・山本五十六が出た町でもある。有名な米百俵の話もある。ここは、ある種独特の教育精神や人物が出る地域なのかもしれない。もっとも、そのおかげで西軍の乱暴狼藉に遭ったり、長岡空襲で壊滅的な打撃も受けた。しかし、媚びずに世に逆らう・・・それも知恵を持って。ここが無責任そのもので世を渡ろうとする長州人と違うところでもあるのかもしれない。
   

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