ブロッター

ブログとツイッターを混ぜて、さらに異論、反論、オブジェクションで固めたものです。で、ブロッターというわけです。毎日書く暇も能力もないので、不定期のコメントです。

2021/春 comment
ブロッター1  話はSFのようであるが、読むにつけ、わかるにつけ現在進行形のどこかの国の実験ではないかと思わされる。提供者と呼ばれる子どもたちが初めは何かわからないが、まさにそれはそのまま「提供する者」だったことに気がつくと、そこからは恐ろしい世界に引き込まれていく感じである。
 それにしても人間というのは、なぜかくも生命の維持に固執するのだろうか。「保護官」という教師めいた人々の存在は、子どもを「消耗」へ追い込んでいく現代の学校システムを思わせる冷たさとぎこちなさを感じさせるし、「介護人」と呼ばれる人々の「提供者」への世話もキャシーの回想を読めば読むほど背筋が寒くなる。
 親には、いや人間には自分や子どもに優秀さを望む本能が内在している。これが優性思想に結び付き、能力開発につながる。問題は、では、その「高度化で人類は幸せになるか」ということだろう。不老不死を得る手段がないように、技術開発で何か進歩は得られるのか。この物語の中の「ヘールシャム」という施設が先進国の中で形を変え、名前を変えて存在し始めているような気もする。この施設は、おそらくITやAIの進歩に呼応したものだろう。この進展の中で、われわれはどこで「人間性」を取りもどす機会を持てるのだろうか。
ブロッター2  梨木香歩さんが、こういう本を出したか!と興味半分で読んだが、子どもが読んでもわかる平易な文体で、リーダーとは何か、どういうリーダーがいいか、悪いかが描かれる。これは、子どもばかりでなく消費天国で脳天気になっている日本国民全員の必読書なのではないか。相変わらず悪事と腐敗に満ちた政権や政府が選挙のたびに勝利する国ではなおさらだ。
 もっとも注目した部分は、なんと吉野源三郎の「君たちはどう生きるか」を引いているところだった。この古典的名作は昭和前期の臭いをふんぷんと放ちながらもずっと刊行されている。出版されたのはファシズムが台頭してきたころ。それがまたブームになっているのは、やはり人々は敏感に時代の空気を感じているということか。基本的な本は読んでおいた方がいいということでもある。
 コペル君がデパートの屋上で敏感に世界の変化を見て取ったときの様子を梨木は鋭くとらえている。天動説から地動説へのコペルニクス的転回の瞬間。それはソクラテスとの対話で生み出され、キエルケゴールが強調した再誕つまりWiedergeborenだった。日本人は良いリーダーを見つけられるだろうか?
ブロッター3  いまだに小松左京の「日本沈没」が刊行されている。3・11以降、地震が頻繁に起こり、海底火山が噴火して島ができ、活火山の噴火も間断なく起きている。どこかに不安があるから読み続けるのだろう。私は発刊時に読んだ記憶があるから、なんと50年もの間、版が重ねられているロングセラーだ。
 で、新しい版を読んだが、色褪せない内容と発想に改めて感慨を深めた。私はKappaBooksで読んだが、いまはいろいろ出ている。版権が50年でなくなったかな。やはり圧巻は沈没し始めたときに政府が考え出す3つの案だ。じつに日本的な諦観のつまった案もあれば国を捨てて逃げ出す案まで・・・・。
 思うのは、間際まで日本人は楽観論しか持てず、少しも破局を想定できないというくだりである。そりゃそうだ。福島原発で津波の高さ想定が出ていたにも関わらず、無視して防潮堤すら作らなかった事実がある。年間4mmも隆起する南アルプスに25kmの長さでトンネルを掘ろうという脳天気。崩落事故など必ず起こるだろう。そして発刊時のときの東京や大阪とは違った、地下が穴だらけの都市・・・・SFだとバカにしてはいけない。SF作家の鋭い洞察力は現実を見た上で出てくるものだ。必ず、東京大震災は起こるだろう。
   

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